「うつ病は心の風邪」とは
この言葉を聞いた記憶がありませんか?2000年頃に、某グローバル製薬企業が展開した言葉です。日本でも、この言葉が浸透することとなりました。ちょうど、うつ病による自殺者数が、増え続けている時期でもありました。
その言葉の意図するところは、うつ病は風邪と同じくらい身近にある病気だということ。
- 誰でもかかる可能性がある
- 治療を通じて回復できる
- 気軽に病院へ行っても良い
上記のように精神病を身近に感じさせる、優れたキャッチコピーと言えるでしょう。うつ病の認知度向上に繋がったのではないでしょうか。
うつは風邪とは似ても似つかない病気
今ではうつ病にもいろんなケースがあることが知られてきています。産後うつ、受験うつ、新卒うつなどの新たな言葉も生まれてきています。それだけ身近になってきたことは、良いことのように思います。
しかし、うつ病の当事者である私としては、先ほどの「心の風邪」のせいで誤解を生んでいる面があると思います。それも、うつ病患者当事者の中でも誤解したままの方は少なくないと思います。
風邪に例えられないうつ病の症状
2020年になった今でも、「うつ病は甘え」「心の持ちようだ」なんて心ない言葉を聞くことがあります。うつ病当事者でなければ、症状について誤解があることは多いです。何を誤解しているのか、私の目線で話してみたいと思います。
まず第一に、うつ病の症状を風邪に例えることはできません。発熱や咳など目に見える症状ではありません。薬を飲めば、無理して仕事や学校に行けてしまう、なんてこともありません。私の経験したうつ病の症状を、いくつか挙げてみます。
- かつて感じたことのないレベルの落ち込み
- 気分の落ち込みが四六時中ずっと続く
- 何に対しても興味関心がなくなる
- 喜怒哀楽の感情が沸かない
- 全く集中できない
- 動きたくても体が動かない
- ずっと食欲がない
- 強い自責の念に襲われる
- 消えてしまいたい気分になる
挙げればキリがありませんが、一言で言うなら「すべての感情が失われる」。あるいは「脳が停止してしまった」感覚です。風邪でそんな状態にはならないでしょう。多くの場合、仕事や学校に行くことは出来ない状態となります。私自身、今は休職して治療に専念しています。
さらに言えば、現在日本では、うつ病による自殺者数は交通事故の死亡者数の6-7倍ほどもあります。そこまで追い込まれてしまう病気だということを、理解している方はまだまだ少ないように思います。
風邪だってそうですが、どうかうつ病の症状を甘く見ないでください。これは当事者の方々も含めて、きちんとした理解が広がることを願っています。
風邪のように治らないうつ病の治療期間
風邪であれば、睡眠と栄養を取る。家の中で温かくして休養する。これで2−3日もすれば自然と回復するでしょう。では、うつ病はどうでしょうか?お分かりでしょうが、家の中でじっとしていても治りません。そもそも、「治る」の概念が全く異なります。これこそ、うつ病患者さえも、誤解しがちなポイントです。
うつ病の方の中で、「いつ治りますか?」と医師に聞いたことはないでしょうか。私も発症してからすぐに、つい聞いてしまいました。しかし、風邪のように2−3日で治るものではないのです。うつ病とは、根気強く半年から1年以上、あるいは何年にも渡って向き合うもの。うつ病に限らず、精神疾患の治療には時間がかかるのです。
さらに言えば、一度寛解(薬を飲まずに症状が出ない状態)できたからと言って、再発するリスクもあります。再発してしまえば、また長期間に渡って治療をすることになるのです。寛解してもなお、再発しないよう様々なことに注意しながら生活しなければならない病気なのです。
心の風邪ではなく「脳の病気」
うつ病はまだまだ理解が広がっていないと言えるでしょう。当事者である私がうつ病を言い換えるなら、「脳の病気」です。心の風邪ではなく脳の病気だと言えば、その重さが伝わるのではないでしょうか。
うつ病という名前を知っていても、目に見えない症状の実態は理解しづらいでしょう。それでも、言葉一つでも印象は変わるんじゃないでしょうか。うつ病などの脳の病気(精神疾患)について、偏見や誤解がなくなりますように。
私からも、少しでも理解が進む情報発信が出来ればと思っています。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
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